直毛とくせ毛・髪の太さや色はなぜ人で違う?遺伝子と進化で解説

目次
  1. 結論:髪の違いを決めるのは「毛穴の奥の形」と色素、そして複数の遺伝子
  2. 直毛とくせ毛を分ける「毛を作る筒」の形
  3. 太さや形は、複数の遺伝子が少しずつ決める
  4. 進化から見た髪——熱帯の縮れ毛と、決着していない寒冷地の直毛
  5. 色と白髪——メラニンと「毛のサイクル」
  6. まとめ
  7. 参考文献
ブログのマスコット「さいろじくん」が、質感の異なる数房の髪(まっすぐな毛・ゆるい波状毛・しっかりした巻き毛)をやさしく紹介するように寄り添う水彩タッチのイラスト
直毛・波状毛・巻き毛——人によって違う髪の質感の多様性

こんにちは!さいろじ研究所のさいろじくんだよ。

朝の鏡の前で、はねる前髪と格闘したことはないかな。まっすぐな人もいれば、くるくる巻いている人もいる。太くてしっかりした髪の人もいれば、細くて柔らかい人もいる。色だって黒、茶、金色といろいろだよね。

同じ「髪の毛」なのに、どうしてこんなに違いが出るんだろう。今日はこの「なぜ人によって髪が違うのか」を、毛の作り・遺伝子・人類の進化という三つの角度から見ていくよ。(髪そのものの構造をくわしく知りたい人は「髪の毛の構造を解き明かす!」もどうぞ。)

結論:髪の違いを決めるのは「毛穴の奥の形」と色素、そして複数の遺伝子

  • 直毛かくせ毛かは、毛そのものより「毛を作る筒」の形で決まる。 皮膚の奥には毛を作る袋状の器官があって、これがまっすぐなら直毛、曲がっていればくせ毛になりやすい。
  • 太さや形は、一つの遺伝子ではなく複数の遺伝子が少しずつ関わって決まる。 「この遺伝子があるからくせ毛」と一言では説明できない。
  • 髪や肌の色は「メラニン」という色素の種類と量で決まる。 白髪は、髪が生え変わるリズムに合わせた色素づくりが、年をとって衰えることで起こる。
  • こうした違いは、人類が世界中に広がった歴史の名残でもある。 ただし「なぜその地域でその髪型が広がったのか」は、まだ分かっていないことが多い。

直毛とくせ毛を分ける「毛を作る筒」の形

くせ毛の人は「私の髪、断面がつぶれた楕円なんだって」と聞いたことがあるかもしれないね。たしかに、まっすぐな毛は断面が円に近くて、くせの強い毛は楕円やD字型に近い、という傾向はある。くせ毛を工学的にまとめた研究でも、くせ毛の断面はつぶれた形で、特定の向きに曲がりやすい性質を持つと指摘されているよ(Cloete et al., 2019)。

でも、「断面が楕円だからくせ毛になる」という説明は、原因と結果を取り違えているんだ。 カールを生む本当の主役は、断面の形ではなくて、毛を作っている場所そのものの「曲がり具合」なんだよ。

髪の毛は、皮膚の奥にある袋のような器官(毛包=もうほう。毛を作る筒だと思ってね)から生えてくる。くせ毛の生物学をまとめたレビュー(Westgate et al., 2017)によると、直毛の人の毛包はまっすぐで左右対称、皮膚から素直に伸びていくんだ。ところがくせ毛の人の毛包は、湾曲していて左右が非対称になっている。曲がった筒から毛が押し出されるから、生えてくる毛は自然とカールする、というわけ。曲がった型から曲がった製品が出てくるイメージだね。

皮膚断面の中の毛包を2つ並べて比較する図解。左はまっすぐで左右対称な毛包から直毛が、右は曲がって非対称な毛包からくせ毛が生えている様子を示す
毛を作る筒の形が直毛とくせ毛を分ける——皮膚断面の比較図

断面のつぶれ具合は、この「筒が曲がっている」状態にくっついてくる結果なんだ。だから断面が楕円かどうかと、カールの強さは一緒に動くけれど、カールの原因は筒の形のほうにあるんだよ。

毛の断面を拡大した比較図。左はほぼ真円の断面、右はつぶれた楕円・D字型の断面が並んで描かれている
毛の断面の違い——直毛は円形に近く、くせ毛は楕円・D字型

地域集団ごとに、平均的な髪の形が違うことも知られている。ざっくりした傾向は次のとおり。

地域集団 太さ 断面
ヨーロッパ系 細め 直毛〜巻き毛と幅広い ほぼ円
アフリカ系 太い 強い縮れ 楕円寄り
東アジア系 太め 直毛〜波状 ほぼ円

ただしこれはあくまで集団の平均的な傾向にすぎない。個人差がとても大きいし、境目もはっきりせず連続的につながっているから、「この地域の人はこう」と決めつけられるものではないよ。

太さや形は、複数の遺伝子が少しずつ決める

じゃあ、毛包の形や太さは何が決めているんだろう。ここで遺伝子が登場する。ただ、ドラマチックな話ではないんだ。「この遺伝子ひとつで直毛」という主役はいなくて、たくさんの遺伝子が少しずつ寄与して、最終的な髪の形や太さが決まるんだよ。

代表として一つだけ名前を挙げると、東アジアの人に多い「太くてしっかりした直毛」には、EDARという遺伝子が関わっている。東アジアに広まった特徴的なタイプがあって、日本・中国・アメリカ先住民の人たちに多く見られる一方、ヨーロッパやアフリカにはほとんどないんだ。

おもしろいのは、この関係が「たまたま一緒に見えているだけ」ではないと、マウスの実験で確かめられていることなんだ。EDARの働きを強めたマウスでは、毛が太くなり、縮れが減ってまっすぐになった、と報告されている(Mou et al., 2008)。EDARが東アジア型の毛を実際に作り出す力を持っている、ということだね。

一方、ヨーロッパの人の直毛には別の遺伝子が関わっている。オーストラリアの双子などを大規模に調べた研究(Medland et al., 2009)で、TCHHという遺伝子が、ヨーロッパ系の直毛と関係していることが分かった。ただし、この遺伝子ひとつで直毛が決まるわけではなく、あくまで多くの要因の一つなんだ。

ここでおもしろいのは、東アジアのEDARとヨーロッパのTCHHが、地図の上できれいに「すみ分けている」ことなんだ。人類集団の適応を調べた研究(Coop et al., 2009)によると、この二つの広がりは別々の波として見えていて、東アジアの直毛とヨーロッパの直毛は、それぞれ独立に進化してきた可能性が高いと考えられている。同じ「まっすぐな髪」でも、たどってきた道は別々だったんだね。

カール(巻き)そのものについても、ヨーロッパ系の人を大規模に調べた研究(Eriksson et al., 2010)で、関わる遺伝子が一か所ではなく複数見つかっている。こうやってたくさんの遺伝子が少しずつ効いて決まる性質を「多遺伝子形質」と呼ぶんだけど、髪の形はまさにその典型なんだ。だから家族でも髪質がばらばらになることがあるんだよ。

進化から見た髪——熱帯の縮れ毛と、決着していない寒冷地の直毛

ここからは時間軸をぐっと広げて、人類の進化の話だ。僕たちの祖先は、サルのように全身が毛で覆われていたよね。それがいつ、ほぼ裸になったんだろう。

ある遺伝子の変化のたまり具合から逆算した研究(Rogers et al., 2004)では、サルのような体毛が失われたのは、少なくとも約120万年前までだったと推定されている。化石で直接見つかった年代ではなくて、遺伝子の変化を時計代わりに使った推定だから、幅のある数字だよ。この研究は順番についても手がかりをくれていて、まず体毛が失われ、そのあとで濃い肌の色が固定されていった——つまり「裸になるほうが先」だったと考えられているんだ。

なぜ濃い肌が広がったんだろう。有力なのが、肌の色と紫外線の関係だ。肌の色を調べた研究(Jablonski & Chaplin, 2000)によると、赤道に近くて日差しの強い地域ほど肌は濃く、緯度が高くなるほど薄くなる。これは相反する二つの力のバランスだと考えられている。強い紫外線は、妊娠や胎児の発育に欠かせない「葉酸」というビタミンを壊してしまうから、日差しの強い場所では濃い肌で紫外線を防ぐほうが有利になる。一方、紫外線はビタミンDを作るのにも必要だから、日差しの弱い高緯度では、薄い肌で少ない紫外線をしっかり取り込むほうが有利になる、というわけだね。

そして残った頭の毛、特に縮れた毛については、強い日差しの下で頭を守る役に立ったのではないか、という仮説がある。縮れた毛が頭皮との間に空気の層を作り、断熱材のように働いて脳が熱くなりすぎるのを防いだ、というアイデアだ。ただしこれは実験でしっかり確かめられているわけではなく、今のところ仮説の段階なんだ。

いちばん誤解されやすいのが「寒い地域でなぜ直毛が広がったのか」だ。これはまだ決着していない。 「まっすぐな髪が首や耳を覆って保温に役立った」といった説もあるけれど、確かな証拠があるわけではないんだよ。

しかも、さっきのEDARが話をややこしくする。EDARは毛だけでなく、汗腺の多さや歯の形など、体のいろいろな部分に同時に影響する遺伝子なんだ。実際、同じEDARの変化は、前歯の裏側がスコップのようにくぼむ「シャベル型切歯」とも関係していることが分かっている(Kimura et al., 2009)。だとすると、寒冷地で選ばれたのは「直毛そのもの」ではなく汗腺など別の性質のほうで、直毛はそれに便乗して広がっただけかもしれない。この可能性が消えない以上、「直毛は寒さへの適応として選ばれた」と言い切ることはできないんだ。

色と白髪——メラニンと「毛のサイクル」

最後は色の話だ。髪や肌の色を決めているのは、メラニンという色素だよ。

メラニンは、皮膚や毛根にある色素細胞の中で作られる。大きく二種類あって、黒や褐色を出すタイプと、黄色や赤みを出すタイプがあるんだ。この二つの比率で色合い(黒っぽいか赤っぽいか)が決まり、色素の粒の大きさと数で濃さが決まると考えられている(Slominski et al., 2005)。黒髪も金髪も、この色素の種類と量の組み合わせで説明できるんだね。ちなみに髪・肌・目の色にもたくさんの遺伝子が関わっていて、これも髪の形と同じく多くの遺伝子が少しずつ決める性質だよ。

そして白髪。年齢とともに髪が白くなるのはなぜだろう。ポイントは、髪の色素づくりが「毛の生え変わりのリズム」に連動していることなんだ。髪には伸びる時期と休む時期があって、色素は伸びる時期に活発に作られ、休む時期には止まる。この作る・止めるをくり返すうちに、年をとると毛根の色素細胞の元気がだんだん落ちていく。そうして新しく生えてくる毛に色がつかなくなるのが白髪だと説明されているよ(Tobin & Paus, 2001)。

髪の色が左から右へ時間とともに濃い色から白へグラデーションで変わっていく毛周期の図。色素細胞の光る粒が交互に点灯・消灯する様子を添えている
毛のサイクルと白髪——加齢で色素細胞が弱っていく流れ

じゃあ、どうして肌より髪のほうが先に色を失いやすいんだろう。それは、肌の色素づくりが休みなく続いているのに対して、髪の色素づくりは生え変わりのたびにオン・オフをくり返す仕組みだからなんだ(Slominski et al., 2005)。オン・オフの負担がかかる髪のほうが、加齢の影響を受けやすい、というわけだね。年をとって髪から白くなっていくのには、こういう体の仕組みの違いが隠れているんだ。

まとめ

  • 直毛・くせ毛のカギは、毛そのものより「毛を作る筒」の形。 まっすぐで対称なら直毛、曲がって非対称ならくせ毛。断面のつぶれ具合はその結果であって、原因ではない。
  • 太さや形は、複数の遺伝子が少しずつ決める。 東アジアの太い直毛にはEDAR、ヨーロッパの直毛にはTCHHが関わるが、どれか一つで決まるものではない。
  • 東アジアとヨーロッパの直毛は、別々の道をたどって独立に進化した可能性が高い。 同じ直毛でも由来は異なる。
  • 色はメラニンの種類と量で決まり、白髪は毛の生え変わりに連動する色素づくりが加齢で衰えて起こる。 肌より髪が先に白くなりやすいのはこのため。
  • 進化の面には未解明が多い。 熱帯の縮れ毛の役割は仮説の段階、寒冷地の直毛が広がった理由も未確定。

髪の違いは、優劣ではなくて、人類が世界のいろんな場所で暮らしてきた歴史と、たくさんの遺伝子が少しずつ重なった結果なんだ。自分の髪を鏡で見るとき、その一本にも長い進化と遺伝の積み重ねがあると思うと、ちょっとおもしろく感じないかな。

髪を今日からどう扱うかという実用の話は「自然乾燥が髪を傷める?」でも書いているから、よかったらそっちものぞいてみてね。それじゃ、また次の記事で会おう!

参考文献

  1. Rogers AR, Iltis D, Wooding S (2004). Genetic Variation at the MC1R Locus and the Time since Loss of Human Body Hair. Current Anthropology 45(1):105-108. doi:10.1086/381006
  2. Jablonski NG, Chaplin G (2000). The evolution of human skin coloration. Journal of Human Evolution 39(1):57-106. doi:10.1006/jhev.2000.0403
  3. Mou C, Thomason HA, Willan PM, et al. (2008). Enhanced ectodysplasin-A receptor (EDAR) signaling alters multiple fiber characteristics to produce the East Asian hair form. Human Mutation 29(12):1405-1411. doi:10.1002/humu.20795
  4. Kimura R, Yamaguchi T, Takeda M, et al. (2009). A common variation in EDAR is a genetic determinant of shovel-shaped incisors. American Journal of Human Genetics 85(4):528-535. doi:10.1016/j.ajhg.2009.09.006
  5. Medland SE, Nyholt DR, Painter JN, et al. (2009). Common variants in the trichohyalin gene are associated with straight hair in Europeans. American Journal of Human Genetics 85(5):750-755. doi:10.1016/j.ajhg.2009.10.009
  6. Coop G, Pickrell JK, Novembre J, et al. (2009). The Role of Geography in Human Adaptation. PLoS Genetics 5(6):e1000500. doi:10.1371/journal.pgen.1000500
  7. Eriksson N, Macpherson JM, Tung JY, et al. (2010). Web-based, participant-driven studies yield novel genetic associations for common traits. PLoS Genetics 6(6):e1000993. doi:10.1371/journal.pgen.1000993
  8. Slominski A, Wortsman J, Plonka PM, Schallreuter KU, Paus R, Tobin DJ (2005). Hair follicle pigmentation. Journal of Investigative Dermatology 124(1):13-21. doi:10.1111/j.0022-202X.2004.23528.x
  9. Westgate GE, Ginger RS, Green MR (2017). The biology and genetics of curly hair. Experimental Dermatology 26(6):483-490. doi:10.1111/exd.13347
  10. Cloete E, Khumalo NP, Ngoepe MN (2019). The what, why and how of curly hair: a review. Proceedings of the Royal Society A 475(2231):20190516. doi:10.1098/rspa.2019.0516
  11. Tobin DJ, Paus R (2001). Graying: gerontobiology of the hair follicle pigmentary unit. Experimental Gerontology 36(1):29-54. doi:10.1016/S0531-5565(00)00210-2

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