思い出はなぜ書き換わる?記憶の仕組みと勉強法

色あせてにじんだ一枚の古い写真が宙に浮かび、輪郭が少しずつ書き換わっていく様子を描いた水彩イラスト。手前にさいろじくんが静かにその写真を見つめている。
思い出すたびに書き換わる記憶

こんにちは!さいろじ研究所のさいろじくんだよ。

友だちと昔の思い出を語り合っていて、「あれ、そんな話だったっけ?」ってくい違った経験、君にもないかな。同じ場にいたはずなのに、覚えている中身がずれている。あるいは、あんなに勉強したのに、テスト本番ではきれいに抜け落ちている。自分の記憶って、そもそもどこまで正確なんだろう。どうして勉強してもすぐ忘れちゃうんだろう。今日はこの二つの疑問を、じつは一本につながった話として説明していくよ。

結論:録画ではなく、思い出すたびに作り直される記憶

僕らの記憶は、ビデオで撮った映像をそのまま棚にしまっておくもの、ではないんだ。思い出すという行為そのものが、記憶をいったんやわらかい状態に戻して、そのつど作り直している。この「思い出すと作り直しが起きる」性質のせいで、思い出は少しずつ事実とずれていくし、条件がそろえば、実際には起きていない出来事の記憶さえ人の頭に生まれてしまう。

でも、この同じ性質を逆手に取ると、忘れにくい勉強法が見えてくるんだ。鍵は二つ。ひとつは「思い出す練習」——教科書を読み返すより、思い出す・解く回数を増やすこと。もうひとつは「間隔をあけた復習」——一夜漬けより、日をまたいで繰り返すこと。記憶が作り直されるものだからこそ、作り直しのたびに定着していく。ここから、その根拠を一つずつ見ていこう。

本論①:思い出すたびに揺らぐ記憶——再固定化

固まった記憶の結晶がやわらかく溶けて再びわずかに違う形で固まり直す、再固定化の3段階の流れを描いた水彩の模式図。
再固定化の3段階——固まった記憶が思い出すことで一度やわらかくなり、また固まる流れ

まず土台になる発見から。記憶は覚えた直後はまだやわらかくて、時間が経つと固まって安定するんだ。これを「固定化」と呼ぶんだけど、一度固まった記憶も、思い出した(もう一度活性化した)とたんに、またやわらかい状態へ戻ることが分かってきたんだ。この「思い出したあとにもう一度固め直す」プロセスを再固定化(さいこていか)と呼ぶよ。

これをきれいに示した実験を、脳科学者ナダーが自らまとめたレビュー論文(Nader, 2015)から紹介するね。実験ではまずラットに「特定の音のあとに電気ショックが来る」と覚えさせる。ラットはその音を聞くとすくんで身構えるようになる——恐怖の記憶ができたわけだね。この記憶がしっかり固まったあとで、もう一度その音だけを聞かせて記憶を思い出させる。そして直後に、扁桃体(へんとうたい。恐怖や不安にかかわる脳の部位)へ、新しいタンパク質を作る働きをブロックする薬を、ごく少量だけ注入したんだ。

記憶をしっかり保つには、脳の中で新しいタンパク質を作る作業がいる。だからこの薬でそれを止めると、後日テストしたときラットは音を聞いてもすくまなくなったんだ。恐怖の記憶が失われたんだね。同じ薬を入れても、事前に音を聞かせて「思い出させる」ことをしなかったラットでは、記憶はちゃんと残っていたんだよ。崩れたのは「いったん思い出した記憶」だけ、というわけだね。しかもこの現象は、記憶を作った1日後でも14日後でも起きたんだ。古い記憶でも、思い出せば作り直しの窓がまた開くんだ。ちなみに、思い出させてから6時間たった後に薬を入れても記憶は崩れなかったんだよ。作り直しでやわらかくなっている時間には、限りがあるということだね。

ナダーのラット恐怖記憶実験を3ステップで示した図解。①音のあとに電気ショックを与え、ラットに「音=怖い」と学習させる。②2群に分け、A群は音を聞かせて恐怖記憶を思い出させ(思い出させると記憶が一時的に不安定になる)、B群は何もしない。どちらの群にも記憶の定着を阻害する薬を投与する。③翌日に音を再提示すると、思い出させたA群はすくまず恐怖記憶が消え、思い出させなかったB群はすくんで恐怖記憶が残った。下部の帯に、思い出してから数分〜数時間の不安定な期間だけ記憶を変更でき、その後は再固定化して安定する流れを示す。
ナダーのラット実験——崩れるのは、いったん思い出した記憶だけ

こうして再活性化した記憶が一時的に不安定になり、また固め直されるまでのあいだに、薬で弱めることも、逆に強めることもできる、という整理がされている(Lee, Nader & Schiller, 2017)。ただ、これはラットの、扁桃体の、恐怖記憶を対象にした基礎研究なんだ。「思い出すたびに脳の分子レベルで作り直しの窓が開く」という考え方の核ではあるけれど、人間のこまごました日常の記憶に、まったく同じ仕組みがそのまま当てはまると証明されたわけではないんだ。それと、再固定化は「思い出すと記憶が必ず悪くなる・消える」という話でもないよ。ふだんは作り直しを経て、また安定して戻るだけ。特別な薬やタイミングを差しはさんだときに、書き換えや弱まりが起きる、という話なんだ。

本論②:あとからの情報による書き換え——誤情報効果

記憶が思い出すたびに作り直されるなら、その作り直しのときに外から情報が混ざれば、中身は変わってしまうはずだよね。それをくり返し確かめてきたのが、心理学者ロフタスの一連の研究なんだ。30年ぶんの研究をふり返った本人の総説(Loftus, 2005)から見ていくよ。

たとえば、交通事故の映像を見せたあとで、「あの一時停止の標識のところで……」と、本当は徐行の標識だった場面についてわざと言い換えて質問する。すると多くの人が、見てもいない一時停止の標識を「見た」と思い出してしまう。ほかにも、映像には映っていない「割れたガラス」を見たと答えたり、のどかな田園風景のなかに「納屋」があったと答えたり、道具のハンマーをドライバーと取りちがえて思い出したりする。あとから足された言葉が、見たはずの中身まで書き換えてしまうんだ。この、事後の情報で記憶が歪む現象を誤情報効果と呼ぶよ。

これは思い込みの言い間違いにとどまらない。脳の活動を画像で調べた研究(Okado & Stark, 2005)では、あとから混ぜられた誤情報を「見た」と答えたケースのうち、それを本当の出来事の一部として——つまり「もとの場面で見た」ものとして——記憶していた割合が、約47%に達したんだ。誤情報だと気づかず取り込んだときには、その半分近くで、外から足された作り事が「自分が体験したこと」に化けていたわけだね。

本論③:ないはずの記憶の発生——偽の記憶

歪むどころか、まるごと存在しない記憶を作れることもある。よく使われるのが、意味のつながった単語のリストを読ませるやり方だよ。ある研究(Ost ら, 2013)では、たとえば「ベッド、休息、起きている、疲れた、夢……」のように、みんなが「眠り」を連想する言葉を並べて読ませる。このリストに「眠り」という語は一度も出てこないんだ。それなのに、あとで「どの言葉がありましたか」と尋ねると、多くの人が「眠り」を強い確信をもって「見た」と答えてしまうんだ。

数字で見ると差がくっきりするんだ。この研究では、実際に見せた言葉を正しく「あった」と答えた割合が約85%。ここまではいい。ところが、リストになかった中心の言葉(さっきの「眠り」のような語)を「あった」と誤って答えた割合が約68%にもなったんだ。いっぽう、リストとまったく関係のない新しい言葉を「あった」と誤答した割合はわずか約3%。関連語だけが飛びぬけて高く誤認されたんだね。関連語リストで中心語の思い違いを引き出すこのやり方をDRMパラダイムと呼ぶんだけど、特別な人ではなく、ごくふつうの人に、ごく単純な材料で偽の記憶が作れることを示している点が大事なんだ。

もっと日常に近い記憶でも、似たことが起きる。被験者の親族から本当にあった子ども時代のエピソードを集めて、そこに「ショッピングモールで迷子になった」という作り話を一つだけ混ぜ、暗示をこめて何度か思い出させる。すると、この手続きを使った複数の研究をならすと、平均でおよそ30%の人が、実際には起きていない迷子の記憶を、部分的にでも、あるいはまるごと語るようになったんだ(前掲 Loftus, 2005)。いわゆる「モールで迷子」の実験だね。

ただし植え付けられる割合は、やり方によってかなり幅があるんだ。約30%はあくまで平均で、「誰にでも簡単に、どんな記憶でも植え付けられる」という話ではないんだよ。これらの研究が示しているのは、暗示的なやりとりのなかで偽の記憶が生じることがある、という一点なんだ。それでも含みは小さくないんだよ。誘導する質問やあとから足された情報で証言が変わることは、目撃証言をそのまま「録画の再生」として信じることの危うさに、まっすぐつながっているからね。

本論④:忘れにくい勉強法——思い出す練習と、間隔をあける復習

左に本を繰り返し読んでも光の粒がすぐ消える様子、右に何も見ずに思い出す手と間隔をあけて灯る光を描き、読み返しより思い出す練習と分散復習が記憶の定着に効くことを対比した水彩イラスト。
読み返しより、思い出す練習と間隔をあけた復習が定着に効く対比

ここからが裏返しの話だよ。記憶が「思い出すことで作り直される」なら、その作り直しを味方につければいい。まず効くのが、思い出す練習そのものなんだ。

文章を覚えたあと、片方のグループは繰り返し読み直し、もう片方は読まずにテスト形式で思い出す練習をする、という実験がある(Roediger & McDermott, 2018 が紹介)。学習の直後に確かめると、読み返したグループのほうが少し成績がよかったんだ。ところが1週間後に確かめると立場が逆転したんだよ。4回読んだグループは覚えた内容の約50%を忘れていたのに対し、1回読んで3回思い出す練習をしたグループが忘れたのは約14%だけ。読むより思い出すほうが、長く残ったんだ。この効果をテスト効果(検索練習)と呼ぶよ。

やっかいなのは、勉強している本人の感覚が逆を向くこと。同じ研究で、繰り返し読んだ人ほど「1週間後にはこっちのほうがよく思い出せるはず」と予測していたのに、実際の成績はまるで逆だったんだ。読み返しは「分かっている感じ」を強めてくれるけれど、それが長く残る記憶に直結するとはかぎらない。この“できる感”の錯覚が、勉強したのに残らない、のからくりの一つなんだ。

もう一つの柱が、間隔をあけることだよ。ある研究チームは、言葉を覚え直す課題を扱った184本の論文・317の実験・839件の測定をまとめて分析したんだ(Cepeda ら, 2006)。たくさんの研究の結果を一つに束ねて全体の傾向を数量的に見る、こういうやり方をメタ分析と呼ぶんだけど、その結論は、同じ勉強量なら、まとめて詰め込むより間隔をあけて繰り返すほうが、あとの保持がいい、というものだったんだ。これを分散学習(間隔をあける効果)と呼ぶよ。しかも、あける間隔に決まった正解値があるわけじゃなくて、「どれくらい先まで覚えていたいか」で変わるんだ。遠い将来まで覚えておきたいほど、あける間隔も長めがいい。一夜漬けは翌日のテストには効くけれど、長い目で見ると分が悪いんだ。

じゃあ結局どの勉強法を選べばいいのか。ダンロスキーは、よく使われる10の学習法を、教材や年齢やテスト形式を越えて広く効くかどうかで見比べたんだ(Dunlosky, 2013)。高く評価されたのは、自己テスト(思い出す練習)と分散学習の二つ。反対に、多くの人がやりがちなハイライトや下線引き、ただの再読、要約は、単独ではそこまで効かないと評価されたんだ。この総説には、ハイライトをした学生が、内容を読み取って考える必要のある問題ではかえって成績を落とした研究もある、と書かれている。低評価は「絶対にダメ」という意味ではなく、「それだけでは期待ほど残らない」ということ。手を動かしてマーカーを引くと勉強した気になるけれど、思い出す練習と間隔をあける復習のほうが、記憶にはずっと効くんだ。

本論⑤:トラウマ治療への応用——まだ研究段階

再固定化の話を聞くと、「じゃあトラウマみたいなつらい記憶も、思い出させて薬で弱められるの?」と思うかもしれないね。理屈のうえでは、外傷の記憶をわざと思い出させて、その作り直しのタイミングで心拍などを抑える薬(プロプラノロールという、いわゆるβ遮断薬)を使い、記憶そのものは消さずに、そこにくっついた感情の強さだけを弱められないか、という試みが研究されてきたんだ。PTSD(心的外傷後ストレス障害。強い恐怖体験のあと、その記憶に長く苦しむ状態)への応用が期待されたんだ。

初期の研究はたしかに前向きな結果を出していた。PTSDの人に自分の外傷体験を語らせて記憶を思い出させ、その直後にこの薬を飲んでもらうと、1週間後にその場面を思い浮かべたとき、心拍などの体の反応がプラセボ(偽薬)より小さくなった(Brunet ら, 2008)。健康な人に恐怖条件づけをした実験でも、思い出させる前にこの薬を飲んでおくと、翌日には恐怖でびくっとする反射が出なくなった。それでいて「この刺激は危険だった」という知識そのものは残っていたんだ(Kindt ら, 2009)。記憶の中身は消さずに、貼りついた情動反応だけを弱める——という筋書きに、ぴったり合う結果だね。

でも現状は、まだ研究段階だよ。過去の分析にあった方法上の問題——効果が出た研究ばかりが世に出やすいこと(出版バイアス)や、条件の合わない研究の混入、見落とされていた試験——を正したうえでやり直したメタ分析(Steenen ら, 2022)では、質のよい比較試験にしぼって束ねると、この薬は偽薬(プラセボ)と比べて統計的に意味のある差を示さなかった。再固定化という現象そのものは基礎研究で確かめられているけれど、それを人の治療にそのまま翻訳できるかは、まだ答えが出ていないんだ。「つらい記憶は薬で消せる」と言える段階ではないんだよ。

まとめ:記憶の仕組みと、その活かし方

  • 記憶は録画じゃなく、思い出すたびに不安定になって作り直される(再固定化)。ラットの恐怖記憶で、思い出させた直後に脳の働きをブロックすると記憶が失われることが示された(Nader, 2015)。
  • だから記憶は書き換わる。あとからの言葉で中身が歪んだり(誤情報効果、Loftus, 2005)、単純な単語リストや暗示的な面談で、存在しない記憶が生まれたりする(Ost ら, 2013;前掲 Loftus, 2005)。ただし「何でも簡単に植え付けられる」わけではない。
  • その同じ性質を味方につけるのが、思い出す練習(テスト効果、Roediger & McDermott, 2018)と、間隔をあけた復習(分散学習、Cepeda ら, 2006)。学習法の比べっこでも、この二つが際立って評価が高かった(Dunlosky, 2013)。
  • 再固定化を使ってトラウマ記憶を弱める治療は、期待されつつもまだ研究段階(Steenen ら, 2022)。

自分の思い出が事実とちょっとずれていても、それは君の記憶がとりわけ当てにならないわけじゃなくて、人の記憶がそういう作りをしているからなんだ。その作りを知っておけば、思い出を過信せず、勉強では「読む」より「思い出す」を、「詰め込む」より「間隔をあける」を選べる。記憶の弱点は、そのまま賢い学び方のヒントになるんだよ。

参考文献

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