
こんにちは!さいろじ研究所のさいろじくんだよ。
勝負の日に「これを着ると気合いが入る」っていう一着を選んだこと、みんなもあるんじゃないかな。白衣みたいにきちんとした服を着ると背筋がのびる気がしたり、赤い服は目立って好かれそうな気がしたり。逆に、よそ行きのきれいな服を着ている人を見ると「なんだかできる人そう」って思ってしまったりね。
服で自分の気分が変わる気がするし、他人の見る目も変わる気がする。でも、それって本当なんだろうか。ただの思い込みなのか、それとも心理学でちゃんと確かめられていることなのか。今日はここを、有名な実験と、そのあとの検証まで一緒にたどっていくよ。
結論:「自分の心」と「他人の目」で分かれる服の効果の確かさ
服の効果は、2つに分けて考えると見通しがよくなるんだ。
ひとつは、服が着ている本人の心や頭のはたらきを変えるという話。これは「被服認知(ひふくにんち)」と呼ばれていて、白衣を着ると集中力が上がったという有名な実験がきっかけで注目された(Adam & Galinsky, 2012)。ところがこの白衣実験は、あとから条件をそろえてやり直したときに同じ結果が出ず、効果があるかどうかは今もはっきりしていないんだ(Burns et al., 2019)。「服を着るだけで頭が良くなる」とまでは、まだ言えないんだね。
もうひとつは、服が他人からの見られ方を変えるという話。こちらのほうが証拠は堅くて、同じ顔でも着ている服が「お金がありそう」に見えるだけで「有能そう」と判断されてしまう、という研究がある(Oh, Shafir & Todorov, 2020)。ただし、その判断がいつも当たっているわけではない、という続きもあるよ。
そして「赤い服はモテる」「赤を着ると勝てる」みたいな色の効果は、最初に派手な発見が報告されたあと、大きな検証で効果がぐっと小さくなったり、消えたりしている。あっても効き目は小さくて、条件しだいなんだ。ここからひとつずつ見ていくね。

本論①:服が着る人を変える説——被服認知と白衣実験の再現失敗
被服認知(enclothed cognition)っていうのは、着ている服が着ている本人の心の動きや思考、行動に影響する、という考え方だよ。服そのものが持つ意味(白衣なら「注意深い専門家」みたいなイメージ)と、それを実際に体で着るという経験、その両方がそろって効くとされている(Adam & Galinsky, 2012)。
この考えを世に広めたのが、さっきの白衣実験なんだ。実験の参加者に白衣を着せて、まちがえやすい注意のテストをやってもらったところ、白衣を着た人のほうが成績が良かったと報告されたんだ。しかも面白いのは、同じ白衣でも「これは医者の白衣だよ」と言われて着た人と、「これは画家の上着だよ」と言われて着た人とで差が出たこと。同じ一着でも、どんな意味を持たせるかで効き方が変わった、というわけだね。ここまで聞くと「じゃあ勝負服にはちゃんと意味があるんだ」と思いたくなるよね。でも、話はここで終わらないんだ。
同じ手順でやり直したら出てこなかった効果
科学では、ひとつの研究で面白い結果が出ても、それだけでは確定しないんだよ。別の人が同じやり方でやってみて、同じ結果が再現できるかどうかがとても大事なんだ。
そこで2019年、バーンズたちの研究チームが白衣実験の直接追試をやった(Burns et al., 2019)。直接追試っていうのは、元の実験とできるだけ同じ手順でもう一度確かめること。しかもこのチームは、実験を始める前に「何を調べ、どう分析するか」をあらかじめ公開して固定しておく事前登録という手続きをとったんだ。これは、結果を見てから都合のいい分析をあとづけで選ぶことを防ぐやり方で、テストの前に問題と答え合わせの方法を封印しておくようなものだよ。参加人数も、小さな効果でも見逃さないように元の実験より多めにそろえたんだよ。
その結果、白衣を着ても注意テストの成績は上がらなかった。反応の速さも、まちがいの数も、白衣のあるなしで差がなかったんだ。元の実験の目玉だった効果が、条件をきちんとそろえた追試では出てこなかった、ということだね。白衣で集中力が上がるという具体的な結果は、少なくともそのままの形では成り立たなくなったんだ。
フォーマルな服と考え方——確実とは言えない段階
被服認知の研究は白衣だけじゃないよ。スレピアンたちの5つの研究では、きちんとしたフォーマルな服を着ると、物事を細かい部分より大きな枠組みで捉えやすくなる傾向があり、その背景には「自分に力があると感じる気持ち」がはたらいていた、と報告されている(Slepian et al., 2015)。
ただ、これも同じひとつのチームによる、規模のそれほど大きくない研究なんだ。白衣実験が追試でぐらついたことをふまえると、フォーマルな服で考え方が変わる話も「面白いけれど、まだ確実とは言えない」という受け止めがちょうどいいんじゃないかな。服が着る人自身を変える効果は、あるかもしれないけれど、今のところ手がかりは弱いんだ。
本論②:他人の目を変える服——「豊かさ」の手がかりと有能さ判断
自分の心を変える効果があやしいなら、服には何の力もないのかというと、そうじゃないんだ。他人からの見られ方を変えるほうは、ずっと堅い証拠があるんだよ。
オー、シャフィア、トドロフの2020年の研究がわかりやすいよ(Oh, Shafir & Todorov, 2020)。彼らは9つの実験で、まったく同じ人の顔に、別々の上半身の服を合成した写真を見せたんだよ。片方は見た目が「お金がありそう(リッチ)」な服、もう片方は「そうでない(質素)」な服。すると、同じ顔なのに、リッチな服を着せた顔のほうが「有能そう」と判断されたんだ。
すごいのは、この偏りがなかなか消えなかったこと。写真をたった129ミリ秒——0.1秒ちょっとの一瞬——だけ見せても偏りは残ったんだ。さらに「服はその人の能力とは関係ないから無視してね」と警告して、正しく判断できたらごほうびを出すと約束しても、判断の偏りは消えなかったんだね。服から「豊かさ」を読み取って有能さを見積もる働きは、一瞬で起きて、意識して抑えようとしてもなかなかコントロールできない、ということだね。
この判断には続きがあるよ。この分野をまとめたレビュー(たくさんの研究を見わたして整理した論文のことだよ)は、服が人の印象を左右する土台になっていることを認めつつ、その印象がいつも正しいとは限らない、と注意している(Hester & Hehman, 2023)。たとえば、きちんとした服装が実際の地位と対応していたのは主に男性で、女性ではその対応が崩れていた。服装という手がかりが実際の地位とかみ合うかどうかが男女で違うから、服装から地位を読み取ろうとすると、女性についてはとくに当てが外れやすくなる、というんだ。
つまり、服が他人の目を動かす力そのものは堅いんだ。でも、その目が読み取った「有能さ」や「地位」が当たっているかどうかは別の話で、しばしば外れるんだよ。しかも同じ人でも、着ている服が質素なだけで能力を低く見積もられるなら、経済的に余裕のない人ほど不利な評価を受けやすい、ということにもなるんだね。服が他人の目を動かす力は、こういう社会的な影響まで持っているんだね。
本論③:赤の効果——検証で縮む「モテる」「勝てる」
服の色をめぐる話は、被服認知よりもっと世間に知られているよね。「赤はモテる」「赤を着ると勝てる」。どちらも一度は聞いたことがあるはず。ここは、最初の驚きの発見が、あとの検証でだんだん小さくなっていく様子がよく見える分野なんだ。

赤の魅力効果——大人数の追試とメタ分析での縮小
「赤を身につけた女性は男性から魅力的に見られる」という発見は、少し前に心理学で話題になったんだ。でも、その後の検証はきびしいんだよ。ペーペルコーンたちが男性830人を対象に3つの実験でやりなおしたところ、赤の効果は見あたらなかった(Peperkoorn, Roberts & Pollet, 2016)。元の研究では大きかったはずの効果が、大人数の追試ではほぼゼロにしぼんだんだ。
さらに、この分野の研究を集めたメタ分析もあるよ。メタ分析というのは、たくさんの研究の結果をまとめて全体の傾向を見る手法だよ。レーマンたちが、赤が魅力の評価に与える効果をまとめたところ(Lehmann, Elliot & Calin-Jageman, 2018)、男性が女性を評価する場合の効果は、統計のうえでは残っても、その大きさは小さかった(効果量d≈0.26、外れ値を除くと0.19)。効果量というのは効き目の大きさを表す物差しで、心理学の慣例では0.2前後は「小さい」効果に分類される大きさなんだ。
しかも中身を見ていくと、心もとない点がいくつも重なっていたんだ。研究ごとの結果のばらつきがとても大きく、効果ありと効果なしが入り混じっていたんだね。都合のいい結果ばかりが世に出やすい出版バイアス——効果ありの派手な結果は論文になりやすく、効果なしの地味な結果は埋もれやすい、という偏りのこと——の痕跡もはっきりとは否定しきれなかったんだ。おまけに、あとの時代の研究ほど、そして手続きを厳しくした研究ほど、効果が小さくなっていく傾向まであったんだよ。著者のあいだでも「本当の効果はごく小さいか、そもそも無いのかもしれない」という見方が出ている。「赤を着ればモテる」は、あっても効き目は小さくて、条件しだいで消える、というのが今のところの姿だね。
赤の勝率——6,589試合で見た五分五分
もうひとつが「赤い装備だと勝ちやすい」説。2004年の五輪の格闘技で、赤い装備の選手が青の選手より勝率が高かった、という発見がきっかけだよ。ただしこれは試合結果を観察して数えた研究で、赤以外の要因がまぎれこんでいる可能性(こういう混ざりこみを交絡というよ)は当初から指摘されていたんだね。勝率と赤色が一緒に現れているという関係(相関)が見えても、赤が勝ちの原因だと決めるところまではいかないんだ。
2024年になって、この説は大きく見なおされることになるんだ。ペーペルコーンたちが、夏の五輪や世界選手権など、あわせて6,589試合分を集めて分析したんだ(Peperkoorn et al., 2024)。すると、赤の勝率は全体で50.5%。ほぼ五分五分で、意味のある偏りとは言えなかった。実力が拮抗した接戦だけを見ても51.5%で、これも偏りとは言えない範囲だったんだ。かろうじて、2005年より前の接戦にかぎると56.8%と赤有利の兆しがあったけれど、そのあとはルールが変わったり、赤有利の説そのものが知れわたって選手や審判の行動が変わったりして、近年は消えてしまったと解釈されている。
注目したいのは、この再評価に、最初に赤有利を報告した研究者自身が加わっていることだよ。自分たちが見つけた効果について、「今のデータでは支持されない」と結論するところまで検証を進めたわけだね。ひとつの派手な発見が、あとの大きな検証で薄れていく——その流れを、発見した本人たちの手でたどった例なんだ。
まとめ:「自分」と「他人」で強さが異なる服の力
服が心と評価を変えるかという疑問には、こう答えられるよ。
- 服が着る人自身を変える(被服認知)効果は、まだ不確実。 白衣で集中力が上がったという有名な実験(Adam & Galinsky, 2012)は、条件をそろえた事前登録の追試で再現できなかった(Burns et al., 2019)。フォーマルな服と考え方の関係(Slepian et al., 2015)も、まだ手がかりが弱い段階。
- 服が他人からの見られ方を変える効果は、比較的堅い。 同じ顔でも「豊かに見える服」だと有能そうと判断され、その偏りは一瞬でも、意識して抑えようとしても消えにくい(Oh, Shafir & Todorov, 2020)。ただしその判断はしばしば当たっておらず、経済的に不利な人ほど低く見られやすいという問題もついてくる(Hester & Hehman, 2023)。
- 赤の効果は、検証で縮んだり消えたりしている。 「赤はモテる」は大人数の追試とメタ分析で効き目がごく小さくなり(Peperkoorn, Roberts & Pollet, 2016;Lehmann et al., 2018)、「赤で勝てる」も6,589試合の集計では五分五分だった(Peperkoorn et al., 2024)。
服が自分の気分をちょっと上げてくれる感覚は、大切にしていいと思う。ただ、その手ごたえがそのまま「服で頭が良くなる」「赤で確実にモテる」という強い効果を意味するわけではない、というのが今の科学の見立てなんだ。むしろ多くの研究で示されているのは、服が他人の目を動かすということ。そして、その目が読み取った印象は当たっているとは限らない。勝負服の本当の出番は、自分を変えるためというより、他人にどう見られたいかを整えるためなのかもしれないね。
見た目が印象を左右するという話は、髪の毛の科学(過去記事)ともつながるところがあるよ。よかったらそちらものぞいてみてね。
参考文献
- Adam, H., & Galinsky, A. D. (2012). Enclothed cognition. Journal of Experimental Social Psychology, 48(4), 918–925. doi:10.1016/j.jesp.2012.02.008
- Burns, D. M., Fox, E. L., Greenstein, M., Olbright, G., & Montgomery, D. (2019). An old task in new clothes: A preregistered direct replication attempt of enclothed cognition effects on Stroop performance. Journal of Experimental Social Psychology, 83, 150–156. doi:10.1016/j.jesp.2018.10.001
- Slepian, M. L., Ferber, S. N., Gold, J. M., & Rutchick, A. M. (2015). The Cognitive Consequences of Formal Clothing. Social Psychological and Personality Science, 6(6), 661–668. doi:10.1177/1948550615579462
- Peperkoorn, L. S., Roberts, S. C., & Pollet, T. V. (2016). Revisiting the Red Effect on Attractiveness and Sexual Receptivity: No Evidence That the Color Red Affects Human Mate Preferences. Evolutionary Psychology, 14(4). doi:10.1177/1474704916673841
- Lehmann, G. K., Elliot, A. J., & Calin-Jageman, R. J. (2018). Meta-Analysis of the Effect of Red on Perceived Attractiveness. Evolutionary Psychology, 16(4). doi:10.1177/1474704918802412
- Peperkoorn, L. S., Hill, R. A., Barton, R. A., & Pollet, T. V. (2024). Meta-analysis of the red advantage in combat sports. Scientific Reports, 14, 30822. doi:10.1038/s41598-024-81373-3
- Hester, N., & Hehman, E. (2023). Dress is a Fundamental Component of Person Perception. Personality and Social Psychology Review. doi:10.1177/10888683231157961
- Oh, D., Shafir, E., & Todorov, A. (2020). Economic status cues from clothes affect perceived competence from faces. Nature Human Behaviour, 4(3), 287–293. doi:10.1038/s41562-019-0782-4

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